2013-02-13

「建速須佐之男命」





前回紹介した僕のトモダチ

「彼とその仲間たち」にまつわる話し。




今から七年前

僕が通っていたオイリュトミーシューレ天使館の

卒業公演の時のこと。




卒業公演では

全員がソロのオイリュトミー作品を発表するため

僕も初めてのソロ作品を創っていた。




選んだテキストは

北原白秋の晩年の詩

「建速須佐之男命」




ところが

劇場入りして

いよいよ明日は本番という時だったと思う。




明かり合わせの段階になって

急遽

衣装のダメ出しが出てしまった。




そして

できれば、黒いスーツのような衣装が良いということに。




僕は当時、黒いスーツの衣装を持っていなかったので

普段からなにかと助けられていた

「彼とその仲間たち」に

たしか

楽屋から相談の電話をしたように思う。





彼らに事情を説明し

黒いスーツを

明日の本番までに調達出来ないかと頼み込んでみると

彼らは

「鯨井くん、マジすか?オレら、あんまり持ち合わせないんですけど…」

とかナントカ言っていたような。




…結局

誰の提案だったか

僕の体格に一番近い、無難なサイズだろうということで

彼がいつも仕事先で着ていた

「黒スーツ」を、劇場まで届けてくれたのだが

彼の「黒スーツ」が届けられたのは

もう本番の2時間前だったか。




しわくちゃで

タバコ臭かったが

とりあえずアイロンをかけ

再びの明かり合わせをした時のことを、今でもよく覚えている。




…この時の本番での新鮮な感覚は、忘れがたく

僕が初めて創った

10分もないソロ作品「建速須佐之男命」は

彼の「黒スーツ」のおかげで

なんとかカタチにすることができたのだと

今更ながら思う。




けれど

彼の仕事着を借りる時

僕は、「黒スーツ」を裸体に直に着て

相当汗だくで踊ることを

彼に言い忘れていたことは

悪いことをしてしまった。

ゴメンナサイ。




…この話しを

今は長野で新婚生活を送っている彼と

先日久しぶりに話したのだが

あの公演翌日に

仕事でその「黒スーツ」を着た時

実はまだシットリしていたと言って

彼は笑っていた。

ちなみに

彼のその時の仕事というのは

吉祥寺の、とある風俗店のボーイである…。




ともあれ

本番ギリギリまで奔走してくれた

「彼とその仲間たち」に僕は感謝している。




ドウモアリガトウ。




…翌日に

スサノヲノミコトの衣装が

風俗店の黒服に早変わりしていたのを聞いて

少し複雑な心境でもあるにはあるが。