2013-03-12

彼とその仲間たち




先日

久方ぶりにまとまった休日がとれたので

長野県の富士見町に住む友人夫婦を訪ねに

三日間の小旅行をした。




舞台公演や帰省以外に

東京を出て旅をするのは

ここ数年なかったのでとても新鮮だった。




その友人夫婦の旦那のほうは

僕が、オイリュトミーを学びに東京へ出て来た頃に出会い

かれこれ10年来の付き合いになる。




初めて出会った頃は

ちょうど彼も長野から上京したてで

だいたいいつも、スカジャンに緩めのジーンズか

ライダースジャケットに黒デニムで全身黒づくめ

といういでたちをしていた記憶がある。




彼はよくウォークマンで

ストーンズの「Paint It, Black」を聴いていた。




当時、彼とその仲間たちは

漫画「クローズ」に出て来そうな感じの

近頃の東京の若者には似つかない

硬派なオーラを発していたように思う。




いつだったか、こんなことがあった。




真夜中に、相模湖へドライブしていた時

わけあって彼はその仲間たちと喧嘩別れし

車を降りて、一人で歩いて帰ってしまった。




しかも

道路ではなく、終電後の

中央線の相模湖〜高尾間の線路を

一人で、歩いて帰っていったのだ。




その区間は

電車で通過してみるとわかるが

山間で、トンネルが何個もあった。




真夜中

明かり一つない、完全に真っ暗な闇の穴を

一人でいくつもくぐり抜けるということは

想像しただけでもコワイ。




ようやく最後のトンネルを抜けた時

夜空に月がこうこうと照っていたのが

とても眩しかったと

彼は言っていた…。




ところで、今回の旅で案内された場所の一つが

有名な諏訪湖である。




彼の話しによると

冬の寒い日が続くと

諏訪湖の水面は全面結氷するらしい。




今回、僕が長野を訪れた時も

明け方になると、氷点下10度近かったので

相当な寒さだと思っていたが

それでも結氷していたのは、湖面の7割くらいだったろうか。




湖岸に降りると

ヒビ割れた湖面の大きな氷が

流氷のようにたゆたいながら

ミシミシと音を立てるのを聴いて

なんとも美しい音だと思った。




結氷し

そこに降り積もった雪で真っ白になっている湖面には

鳥や獣らしき足跡が無数にあった。




しばらく歩いていると

その白い湖面の遠くに

一点の黒いシルエットを発見。

初めはなにかわからなかったが

どうやら一羽のカラスだった。




ゴミや餌など、漁るものもない

真っ白い湖面のそこかしこに

よく見るとカラスが楽しそうに群れている。

都会では見ることのない光景だ。

どうしてか不思議な感じがした。




この諏訪湖にも彼の逸話がある。

彼が十代の頃

ある真冬の真夜中、なにを思ったのか

結氷した諏訪湖の中央へ

一人で歩いて行ったことがあるのだという。




周りからは死ぬぞと止められたらしいが

それでも、真っ白な諏訪湖の中央に歩いて行き、

一人佇みながら、ぐるりと見渡す真夜中の世界は

サイコーだったと、彼は言っていた…。




そんな彼とその仲間たちだが

僕のやっていたオイリュトミーのことなど

初めはまったく知らなかった。




それにも関わらず

愛知万博で僕が初舞台を踏んだ時や

松本の山奥で、初めて自主企画の公演を開催した時などは

こぞって東京から、クルマで駆けつけてくれた。




今どき珍らしい、熱いオトコたちである。




彼とその仲間たちのことを思うと、いつでもエネルギーを貰える。




そんな彼も

今では長野で素敵な嫁さんと暮らしている。

嬉しい限りだ。




…続く。